フランスで馬飼育が免許制になる!?
動物虐待を防ぐために、フランスで新たな法律が制定されました。個人で馬を所有する場合であっても、馬の飼育に関する知識の免許が必要になります。
2021年12月1日、フランス共和国官報に新しい法律が3つ掲載されました。馬の福祉改善を目的とする法律で、そのうちのひとつが「馬の飼育の免許制」です。
フランスでは今後、馬の管理に関する知識の証明が必要です。
現在資格を持っていない個人馬主には、証明するための教育を受けることが義務付けられます。1年以内にすべての個人馬主が、教育を受けたという免許の取得を義務付けられる予定です。この免許制は、2019年にフランス馬術連盟(FFE)が既に会員取得の義務として導入していたものです。
フランスでは馬主に証書取得が義務化されるだけではなく、馬が神経切除術を受けたことの登録も義務付けられます。この手術は治療としてみなされているものですが、競技会やレース界では禁止されています。
また、預託馬に関するリース料や預託料の支払いが滞っている馬主への法律も変わりました。万が一不払いがある場合は、馬主は「馬を捨てた」と判断され、3ヶ月解消されなければ、施設側はその馬主の馬を売る許可を司法裁判所に申請できます。
今後フランスで馬を飼うには、教育を受け、免許を持たなければなりません。
日本で馬の飼育に必要な資格
次に、日本での馬の所有に関する制度について紹介します。
動物の飼養・収容許可申請書(日本)
個人で馬を所有する場合について紹介します。この場合特別な資格は必要ありませんが、自治体に「動物の飼養・収容許可申請書」を提出し、許可を取る必要があります。この許可は一部の自治体では不要です。
飼養・収容許可申請書の内容
- 馬を飼育するスペースの面積や構造
- 敷地
- 運動場
- 床の材質
- 給水設備など
- 汚物処理
- 資料取扱室
申請に通るには、飼養衛生管理基準(家畜伝染病予防法第12条の3)の基準に基づくことが必須です。基準に従い、馬の衛生面の管理や病原体対策などを守ることが求められます。
家畜は臭いに関しても意識しなければなりません。そのため化製場等に関する法律に従って、清掃がきちんとできるかが申請の基準になります。
個人で馬を所有する場合、特別な資格はありません。しかし馬は犬や猫などのペットではなく、家畜と扱われます。ペットとして馬1頭を飼う場合も自治体の保健所に申請し、許可を得なければいけません。
動物取扱責任者(日本)
この他、施設などで馬を所有する場合は「動物取扱責任者」という資格保持者を必ず1人置くことが義務付けられています。
施設内に1人が動物取扱責任者であれば良いため、他の従業員の資格の有無は問われません。
個人以外で馬を取り扱う場合は、「第一種動物取扱業」という業種に分類されます。第一種動物取扱業は、ペットショップなどの動物の販売や、ペットサロンなどのサービスの提供、動物園や水族館などの動物の展示など。馬だけではなく、動物に関わるほとんどの仕事をさします。
動物取扱責任者となるためには、以下の4つのうちどれかに当てはまる必要があります。
- 獣医師の資格を取得している
- 愛玩動物看護士の免許※を取得している
- 種別に係る知識及び技術について1年以上教育する学校等を卒業し、半年以上の実務経験、または実務経験と同等の1年以上の飼養経験がある
- 公平性、専門性のある団体が行った試験により資格等を得ていて、半年以上の実務経験、または実務経験と同等の1年以上の飼養経験がある
※現時点(2022年4月)では愛玩動物看護士は新設されたばかりの国家資格のため、該当者はいません。
さらに法律上での違反がない・破産手続き開始の決定を受けて復権を得ていない・暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過している等、10つの条件をクリアしてはじめて動物取扱責任者となることができます。
動物取扱責任者になってからも、研修の受講を毎年1回以上することが義務付けられています。基準が厳しい動物取扱責任者ですが、2020年6月1日に施行された改正動物愛護法により、さらに資格要件が厳しくなりました。
日本とフランスの、馬の福祉向上の違い
フランスと日本の馬の取り扱いについてまとめると、次のようになります。
フランス
- 馬の用途に関わらず、馬の管理者は全員、馬についての教育を受ける(個人所有も含む)
- 馬に関する知識の免許が必要
日本
- 馬の個人所有者は教育・免許なしで問題ない
- 馬に関わる仕事の責任者だけが、動物管理についての教育を受ける
- 責任者だけが、動物に関する知識の免許が必要
日本とフランスの違い
個人の所有であっても教育を受け、それを証明する免許が義務付けられるフランス。その理由として、馬の福祉に重点を置いていることが挙げられます。
フランスは、競馬であっても馬の福祉を重視しています。動物愛護の視点から、鞭の使用回数は5回に減らされました。一方日本の競馬は、連続10回以上の鞭の使用を禁止しています。連続しなければ、鞭は何度も使えます。
さらに、フランス馬術連盟(FFE)は馬の福祉の監督を配置しました。動物行動学を専門とする科学者が、連盟内の馬の福祉を監督する役割に就いています。
日本でも動物福祉に関して意識が変わってきましたが、未だ馬たちの環境の改善は劇的にはみられません。
免許の内容も、フランスと日本では大きな違いがあります。
問われる知識が「動物全般」なのか、「馬」なのか、という点です。動物であっても、犬や猫といった愛玩動物と馬では違いがあります。飼育環境や扱い方はもちろん、単純な大きさの違いによる危険度というものも異なってきます。
日本でも、犬猫の飼育に免許制を導入する声があがりました。2016年に署名が集まり、そして約3.5万筆が環境省に提出されました。この署名は犬猫の飼育のみでしたが、日本でも免許制の動きがあります。
馬に特化した教育を行い免許制を導入することで、馬だけでなく馬主にもメリットが生まれます。飼うために必須の知識を得られる、馬の行動を知ることで安全性が高まるなど、馬と人のどちらにとっても良い制度ではないでしょうか?
参考記事